「手紙」という音楽で「痴呆防止」を考える
久しぶりの長文です。
テレビで紹介されていたのでさっそくYoutubeで探しました。樋口了さんが歌う『手紙 〜親愛なる子供たちへ〜』という歌です。これは聴いてもらうだけで説明が必要ないと思います。
というわけで、この歌を初めて聴くという方はハンカチかティッシュを準備して聴いてください。
わたしには大正生まれの80歳を余裕で超える1人暮らしの祖母がいます。痴呆は出ていないのですが、少しずつ少しずつ「小さく」なっていっているのは事実です。
昔からおばあちゃん子だった私は、大学生になってもバイト前に少し寄ったり、アメリカにいた1年も毎週電話をして手紙を書いて、帰国後社会人になっても頻繁に会いに行っていました。今も週1、少なくとも2週間に1度は会いに行っています。頻度が高いほど「いい孫」と周囲からは見られていますし、祖母自身も一応は私が自慢の孫のようです。ただ、頻度が高いほど「家族」「気をつかわない」関係であるため、自分の苛立ちや機嫌の悪さをぶつけてしまいます。
いつの間にか「元気で強いおばあちゃん」が「何もできないおばあちゃん」に変わっていく。悲しみと苛立ちを覚えた時期があったなぁとこの歌を聴いて思い出しました。
今は年齢的に病気をするたびに弱っていきます。体力の限界は仕方がないのですが、精神的には強くいてほしい。そう思っている周囲の人にたいして祖母は「もう死んでもいい」「もう何もしたくない」とばかり言います。でもお医者さんに言われたことは神経質なほど守るし、ほんとはそんなこと思っていないくせにそうゆうことを言うのです。
そうゆうことを聞く度に「世の中には全く歩けなくなっても車椅子で外に出ようとか、旅行をしてみようとか、キモチでカバーしている人がたくさんおるんやから、歩ける身でそんな弱気なこと言うたあかんで。聞いてる方も気悪いやん。」と、本音をぶつけてしまいます。
あまり人を褒める人でもありませんし、おそらく友達も多い方じゃありません*1。普通に人が嫌がることもクチにします。そうゆうのもサラリと流せればいいのですが、私は「ようそんなこと言えるなー。そんなんばっか言ってたら、誰もおばあちゃんに会いに来てくれへんようになるで。」とか言ってしまいます。
年老いている祖母に対して、こうゆうことをストレートにぶつけてしまう自分がすごく嫌で、もう会いに行かないほうがいいんじゃないかと悩むこともありました。だけど「行かない間に死んでしまったらどうしよう・・・きっと後悔するんだろうな」という、ある種の強迫観念にも似た思いで定期的に顔をだしては、こんなふうにケンカしたり、ケンカのあとは優しくされたり、そして普通に戻ったり、の繰り返し。
でも今思うと、80歳を超えても全く痴呆の気配がないのはこれが効果的だったからかなぁとも思うのです。
たまーにしか顔を出さない場合は、嫌なことを言われたり「え?それおかしくないか?」と思っても優しくできます。「まぁ高齢だし仕方ないな」と思えます。逆に祖母からみても、たまに会う人よりも頻繁に顔を合わせる相手の方が好きなことが言えるようです。
「なんでそんな嫌なこと言うの?信じられへんわー。」と言うと決まり文句のように「あさみにしか言わへんわ」と言います。これはこれでどうかと思いますが、気をつかわず何でも言える相手がいるのはきっといいことなのかなと思います。
ケンカも、程度によりますが「喜怒哀楽」は脳を刺激するのでいいのかもしれません*2。大切なのは「優しさ」だけではなくて、高齢になっても「人間」として接し、「あなたが好きだから言うのです」という思いをちゃんと伝えることだと感じます。
余談ですが、そういえばこの状態は、最近読んで衝撃を受けた本『自分の小さな「箱」から脱出する方法』で言うと”箱から出ている状態”なのだと気づきました。箱から出てさえすればケンカをしてもちゃんと愛情は伝わるのだということです。(この本はすごく良かったので、またレビューを書きたい)
そして、歌の中にあるように「痴呆の状態になった」ときは赤ん坊のように接することが優しさかもしれません。けれど、痴呆を防ぐためには、高齢だからと何でもやってあげたり赤ん坊に話しかけるような口調でただただ優しくするのは1人の大人な人間に接する態度として失礼だと私は思います。
ここで、私が感じる「痴呆を防ぐポイントと行動」をまとめたいと思います。あくまで実体験として感じることで、医学的な根拠はないのですが以下のページに掲載されているように、「脳の機能をしっかり使う」という点と自分の行動と祖母の症状で感じてきたことを書きます。
Q.誰しも痴呆にはなりたくありません。痴呆は予防できないのですか?
これらの2つの研究は、脳の機能をしっかり使うことが痴呆の予防になりうることを示しているのです。
■ 痴呆を防ぐ5つのポイントと行動
1:思考を止めさせないこと
間違っていると思うところ、嫌だと思うところははっきりと伝える。そこでケンカになっても、本人が「何がいけなかったんだろう?」とか「反省しなきゃ・・」と後々も考える機会になる。
この時のポイントはしっかりと「○○って言われたのは○○だから、私は嫌だ」と、『本人の言動+理由+こちらの感情(意見)』をセットにすると良いと思います。(例:「死にたい、とか言われると周囲は何て答えたらいいか分からないし暗い気持ちになるから言わないほうがいいと思う」)
2:成長することを諦めさせないこと
本を読んでもらう。編み物をしてもらう。長編のDVD(寅さんとか)を観てもらう。
積極的に趣味に没頭するタイプの方ならこちらは何も手を出す必要もないのかもしれませんが、私の祖母は「肩がこるから何もしたくない」とか「しんどいからどこも行きたくない」と言う人なので、こちらから何か目標を提示することを心がけています。そのためには『質問すること』がポイントです。やはり本人はどこかで「私はあなたより歳をとっていろんなことを知っている」と思っているので、そうゆうふうに感じることができる話をふるとモチベーションがあがるみたいです。代表例はやはり戦争の話や昔の生活の話。これは聞いている方にもとても為になるし面白いです。モチベーションがあがると「そういえばこんな本が面白かったな、また読みたいな」など行動につながるようです。
3:嬉しいという気持ちを忘れさせないこと
上記2のことを達成したときや話をしてくれたときは『褒める』がとても重要な気がしています。褒められると誰でも嬉しい気持ちになります。「こんな細かい編み物できるの?!うまいねえ。」「昔は大変やってんなー。そんな時代を生き抜いたってすごいよね」などというふうに感想ついでに褒める。褒められると「次も頑張ろう!」「またこんな話をしてあげよう」と日頃から思えるようになります。
4:存在意義を感じさせること
「こんなものを編んでほしい」とか「この料理をつくってほしい」とか、『本人が出来ることをお願いする』ことは良い方法のようです。やることがない、という状態をつくらないためにも良いと思います。
また、お小遣いをもらうことは、いい大人が・・・と思うかもしれませんが「存在意義を感じさせる」良い例じゃないかと思います。もちろん本人の経済面が左右しますが。こちらから要求する形ではなく、本人から「お小遣いあげるよ」とお金を差し出されたら「私はもう大人だからいいよ、いらないよ。」と善意で拒否するんじゃなくて、「ありがとう。○○が欲しくて、でもガマンしてたところだから嬉しい」などと言いながら素直に受け取るほうがいいような気がします。本人に「願いを叶えてあげた」という感情が芽生えるようで「まだまだしっかりしなきゃ!」とか「まだまだ必要とされる存在なんだ」と思ってもらえるみたいです。これは『安心させてあげる:甘える』の割合バランスが大事かもしれません。*3
5:愛してくれている人がいると感じさせること
結局は何をしても「愛されている」と感じたら大丈夫だと思います。目を見て話す・会いに行く・手紙を書く・電話をする。どんな手段でも『愛』が伝われば脳と心の刺激になるのではないでしょうか。祖父母になかなか会いに行けない人は手紙+写真や絵葉書を送ることをオススメします*4。一緒に住んでいるor近くに住んでいる人は、たまーにクチに出して「おばあちゃんは私に愛されてるから幸せやなぁー」って言ってみる、とか。
私たちの祖父母の時代で、戦争をリアルに体験した人はほぼいなくなってしまいます。そうゆう意味でも、この年代の人たちの経験談や過去の話というのは国宝級に大切なものです。家族だけでなく、その世代の多くのおじいさんおばあさんに話を聞き、大切にすることが必要な気がしています。
長々と書いてしまいましたが、痴呆というのは、こうゆうことをしていてもどうしてもなってしまうものでもあるかもしれません。でもそうなる前に、自分が出来ることをたくさんしたいと私は思います。
そしてもし祖母が痴呆になったら、きっとキレイ事だけじゃ済まないとは思いますが「手紙」という歌を聴いたあとのような優しい気持ちでいつも接することができるといいなと思います。
PS: 最近祖母から買ってきてと頼まれた本が以下のとおり。80歳超えの祖父母さんに何をプレゼントすればいいか分からない、という方が少しでも参考にしていただければ幸いです。
- 作者: 田中美智子
- 出版社/メーカー: 新日本出版社
- 発売日: 2009/03
- メディア: 単行本
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- 作者: 小林多喜二
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1954/06/30
- メディア: ペーパーバック
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漫画も読みやすくて面白かったみたいです*5。
- 作者: 小林多喜二,バラエティアートワークス
- 出版社/メーカー: イースト・プレス
- 発売日: 2007/10/01
- メディア: 文庫
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